[車を運転してくれる同胞が、気づかわしげに助手席に座る男に声を掛ける。
好事家の別荘までは数十キロ離れているので、彼が車を出すと手を挙げてくれたのだ。]
あぁ、大丈夫。
ちょっと頭に血が上っているだけだ。
[それが駄目なんだとは内心思いつつ、爛々と輝く黄昏色を見ると何も言えない。
彼らの旅路が長いという事は伝え聞いてきたし、この従者の過保護ぶりもこの数日間で身に染みる程理解していた。
彼が手を挙げたのは、男が今にも邸宅に強襲しそうだったからだ。
コミュニティに属していないものとはいえ、吸血鬼が騒ぎを起こせばこの地のコミュニティに波乱を招きかねない。
その為、男を止めるという目的でも数名が彼に助力を志願したのだった。]