[さて、グリッサへの返信を認めるまでの間に
ヴィブラトは手紙を一通だけ見落としていた。
手紙の束には、宅配便の不在配達通知が混ざっており
(豪雨に見舞われた例の都市の古物市場で
ベネディクトが仕入れてきた品の配送便だった。
つまり道路のほうも早期復旧していた、ということだ)
その通知を急いで店主の元に突き返しに行った際に
下に滑り込んでいたそのメモも一緒に持っていってしまったのだ。
このメモの送り主が、文字通り鴉となって
この店へと翼を広げて翔けつけるのは、
そして店主にして重篤な “信奉者” であり、
それ故に「吸血鬼キャラ」の人間に対して
大分斜に構えた態度をキメていたベネディクトが
「モーラ様」の真実を目の当たりにしたことで
天動説から地動説並みの大転換を余儀なくされるのは
ヴィブラトが手紙の返信を一通り書き終えてからのこと。]