[物語を広めるチャンスだ!
ボクは思い立ってうきうきと手紙を書き綴る。
途中、物語への創作意欲から、
前のめりに売り込みたくなる気持ちを自制しつつ。
ボクなりに丁寧に書き綴る]
[書き終わって改めて書いた文章を読み返すとやはり情熱が隠しきれていない気も?
いや、まあこれはこれで……。
ボクの意欲をアピールできていいかな?
そう前向きに考えつつ。
ボクは手紙を光る蝶に変えて空に放った。
返事が来るといいなと思いつつ。
ボクは趣味の創作活動で物語を書き綴っていった]
[創作の途中。
書き綴るある物語の構想にも満たない落書き。
──ああ、くだらない。
感傷と共に紙をぐしゃぐしゃにして屑籠に放り込む。
が、紙は屑籠から僅かにそれて床に転がる。
開け放たれた窓から鳥が舞い込み、
紙を拾ってどこへともなく飛んでいく。
ああ、ああ、どこへなりと行くがいい。
ボクの知ったことじゃあない]
──学びの塔:人形の部屋──
[目が覚めたら、とっくに朝になってた。
慌てて部屋を飛び出そうとして、ひらりと入ってきた手紙に気がついた。
先日受け取ったのと同じもので、飛びつくように手にして封筒を開く。
キラキラと輝く便箋はとても綺麗で思わずため息が出そうになる。
これもそう、「きれい」と言っていいものだろう。
人形はその美しい手紙を読み進める。
そこに書かれている美しい文字を一つ一つ拾いながら、大事に大事に噛み締める。]
大好き……
[その文字の一つ一つが、人形を肯定してくれていた。
人形が読み進めていけば、便箋の三枚目にたどり着く。
はっと机の上を見れば、もうすっかりインクの出なくなってしまった万年筆がある。]
[人形は万年筆と小遣いを握りしめて、裸足のまま部屋を出ていく。
その足取りは寝坊を恥じる重いものではなくて、とても軽々としたものだった。
通い慣れた博士の研究室までの道のりを、普段よりもずっと早くたどって人形はノックの返事も待たずに部屋の中へと飛び込んだ。]
博士! 万年筆のインクください!
それからっ……それから、
綺麗な色の封筒、とか、道具屋でかえますか?
[人形は万年筆にたっぷりインクを補充してもらうと、裸足なのを忘れたかのように道具屋の方へとかけていく。]
──学びの塔:人形の部屋──
[人形は下書きをした文章を元に、なるべく丁寧に文字を書いていく。
特に「どう思ったのか」という部分にはうんうん唸りながらも、ようやく書き上げて、便箋の最後に署名をしてから、慎重に綺麗に半分に折りたたむ。
それを選んだ封筒の中に入れてから、昨日から作っていた押し花も中に入れた。]
できた……!
[指先をインクで汚しながらも、最初より随分と長い手紙を書き終えた人形は、満足感に浸りながらしばらく完成した手紙を眺めている。
便箋は入れた、署名もした、押し花もいれた。
大丈夫だろうか、と心配になったがもう糊で封をしてしまっている。]
い、いってらっしゃい……
[多分届く、と思うけれど。
喜んでくれるだろうか、楽しんでくれるだろうか、好きだと言ってくれるだろうか。
ドキドキしながら──そう、人形はないはずの心臓を高ならせながら、空へ飛んでいく封筒を見送った。]
[空へと舞い上がって行った封筒を眺めていると、頭上から羽ばたく音がする。
鳥だ、とすぐにわかって窓に駆け寄って視線を左右へと動かした。
鳥は好きだ、空へ飛んでいく姿をずっと見ていられる。
どこにいるのだろうと目を凝らしていれば、白い鳩が静かにこちらへと近づいて──近づいて、窓辺に止まった。]
ふあ……!?
[こんなに近くに鳥が来たことなどない。
ましてやなぜ来たのかもわからず、人形はおとなしい鳩をただただ眺めてその背の荷物に気が付かない。
魔法が多くの運搬を担ってしまうルーナ王国の、ましてや魔法の研究機関の総本山である学びの塔では、生き物が運搬するなど考えられないことである。
だから最初はその鳩の役割などわからず、不思議な鳩だなと思っただけだった。
違うと気が付けたのは、鳩がばさりと翼を一度広げて小さく鳴いたからである。]
は、はと……? ここは、人形の部屋。
ここには鳩にいいものは、なにも……んん?
[くるっく、と鳴いた鳩がクリーム色の便箋をくちばしに摘んで差し出す。
思わず受け取ってしまって、目をぱちくりさせながら見下ろした。]
手紙……? わたし、に?
でも、……あ!
[どこかの、誰かへ。
そう思いながら空へと飛ばした手紙を思い出す。
くるっく、と再度鳴いた鳩に促されるように封を開く。
そこには少しクセのある文字が並んでいた。
一文字一文字追いながら、そこに書かれている全く知らぬ描写に想像の限界を超える。]
[星を見るから、学びの塔の周囲は夜になると暗くなるのが普通だ。
なのにこの手紙の差出人は明るいという。
市街地、とあるからきっとたくさんの家があって大きな建物もあるのだろう。
人形の知識は乏しいから、絵本か絵画の絵でしか見たことがないような風景が、ぼんやり浮かぶ程度だ。]
鳩、ありがとう。
なに? まだある? うわあ……!
[鳩が持ってきたのは手紙だけではない。
そのくちばしにくわえて差し出されていたのは、リボンの結ばれた青い花。]
青い……! きれい……!
花火、の色みたい。
なんの花かな。昨日見た
[くっくる、と鳩は鳴く。
人形はもう一度手紙を読んでから、美しい青い花を机の上にそうっと置いた。
西の魔女から届いた花たちも一緒に並んでいる。]
[手紙を返そう、この場所のことも教えよう。
それから何か、わたしだってもっと、とっても、すてきなものを──
むくむくと湧き上がってくる気持ちがなんなのか人形にはわからなかったけれど、それは再び部屋の外へとかけ出すには十分すぎるものだった。
勢いに任せて飛び出ると、うわっと廊下で声が上がる。
そこにいたのはブーツの修理を頼んだ修理屋だった。]
え? もって、きてくれた……?
あ、ありが、とう……
[困惑しながらも受け取れば、裸足じゃ危ないよとか予備を今度買うように博士に言っておくよとか、修理屋はそんなことを話してくれる。
曖昧に頷きながら、促されるままにブーツに足を入れれば元通りにぴったりと足に合う仕上がりになっていた。
ついでに敗れかけてる部分は革を当てておいたよと言われて、よく見れば一部分に新しい革とその繋ぎ目に装飾の金属が置かれているのに気がついた。]
[足を傾けると、その銀色の装飾はきらりと輝く。
これもきれい、と言っていいだろう。何度も見ていたい。]
この、金属の。
ううん、気に入ったから嬉しいです。
これ、他にもありますか?
[そう聞けば修理屋は店までおいでと言ってくれたので。
まだまだたくさん残っている小遣いを片手に、人形は修理屋まで赴いた。
それから、道具屋で新しい封筒も買ったのだ。]
──学びの塔:人形の部屋──
[人形は新しく買った封筒を前にしながら、ゆっくりと文章を書いていく。
失敗を活かして一度下書きをすれば、ずいぶんと上手にかけるようになった、気がする。
しっかりとインクの出る万年筆が便箋の上を走っていく。
これを読むのはどんな人なのだろう。
名前と国ぐらいしかわからぬ相手のことを思いながら、面識のある人に送るのとは違う緊張と──内側からふつふつわいてくるちょっぴりゆかいな感情に、人形は無意識に鼻歌を歌う。]
〜♪〜♪
[床につかない足をぶらぶらと揺らして。
ゆっくりと文字を書き綴る間、鳩はずっと窓際で待っていてくれている。]
[下書き通りに書いていたはずなのに、つい手が滑って違う単語を書いてしまった。
もうほとんどできていた一枚目の便箋だったから、線を引いて別の言葉にする。
書き終えた便箋を丁寧に半分に折って。
贈ってもらった青い薔薇と同じく、青い鳥が描かれた封筒へと入れた。
それから、修理屋で買ったものを中に入れて、丁寧に糊をつけて封をした。]
鳩、持って行って。
……鳩は、この人に会える?
[鳩に手紙を預けながらそう聞けば、鳩は首を傾げるだけである。
窓の向こうへと軽々飛んでいく姿を見上げながら、人形は──人形は、誰かに呼ばれるまでずっと、そうしていた。]
―シルワ帝国・ターミナル駅―
どもども〜カルカイト新聞社のライトです。お世話になってます。
[にっこり、といつもの笑顔……よりも五倍ワクワクしながら改札で挨拶をする。
目的はいくつもあるが、主に新聞を売りに来たり新聞社宛てに届いている荷物や手紙を受け取りに来たり。
本来であれば自分よりもう少し後輩の役目であるが、なんせ俺は後輩より記事を書く気が……やる気という物がない。
だから雑用を任される事も多かった。それに、ここには半分好きで来ているから苦でもない。
顔なじみ数人に挨拶をしながらいつものように蒸気機関車へと近寄る。
この駅は終着駅の為、他の場所よりも停車時間が長い上に移動する民の数も多かった。
そんな忙しない空気の中で一人機関車に見とれている人間が居ても誰も気になんかしない。]
はぁ……やっぱりいいな蒸気機関車……ロマンの塊……
[なんて独り言も普段だったら聞かれたりしないのだが、今日は違った。
自分と同い年くらいの青年に肩を叩かれ、猫ばりにびゃっ!と飛び上がれば大笑いされた。]
[空が夕暮れに近くなるころ、人形の部屋に博士の助手が訪れる。]
なんですか。
……夕食。はい、作ります。
[窓を閉じて、人形は部屋をでて博士の元へと向かう。
助手が用意してくれた温かいスープと、人形が焼いた焦げかけのトースト。
それから博士が用意してくれるりんごのジュース。
それが二人で取る食事だった。
博士の部屋の前に来ると、人形はこんこんと扉を叩く。
中から帰ってきた声と言葉に、人形は今日呼ばれた理由を理解した。]
びっ……くりしたぁ!!!!!
なんスか!もう〜〜お疲れさまです!声くらいかけてくださいよ〜
[いやぁ、ごめんごめん。と謝ってもらったもののまだ笑いの波は収まらないようで。
制服に身を包んだ青年は笑い過ぎて浮かんだ目尻の涙を拭いながら一息ついた。
そんなに笑わなくてもいいのに……なんて思いながらも雑談に入る。
ここから噂話が聞けたり、記事のネタになりそうな話題の種を拾えたりするので決してサボりではない。
そういえば、と出て来たのはとある農村の風景。
なんでもその辺りの男の子達が手を振ってくれる事もあるそうで。やっぱり格好いいもな、わかるよ。
うんうんと頷けばまた笑われた。
あぁ、それでね……と制服の懐から出てきたのは1通の手紙。
聞けば亜人の少女に渡されたものらしく。
宛先はなく、ただ、届けてとお願いされたと。]
[人形はひとつ、呼吸をする。
人形は落ちていた横髪を耳にかける。
人形は一度唇を結ぶ。]
きたよ! ご飯食べよ。
[人形はらしくなく声を張り上げて、薄暗い部屋へと体を滑り込ませたのだった。]
へぇ〜!ロマンチックっすね。誰に届けるのもお兄さん次第ってこと?
[これは何かかが起きそうな予感。
といっても、記事というより物語の方が向いていそうなネタで。
自分には縁が無い感じ。もし関われるのなら、車掌の青年が誰かに手紙を渡すシーンの通行人くらいだろうか。
そんな想像をしていた筈なんだが、どうしてだかその手紙は俺の手の中にあった。
はい、じゃあ確かに届けたよって。]
い、やいやいや!僕に渡すのも可笑しくないっスか!?
[車掌のお兄さんはにっこり笑った
機関車を降りて初めて会った人に渡そうと決めてたから、と。]
……っと。後は封をして。
やっぱり下書きなしに考えながら書くと長くなるな。
はい、どうせまたあっちの方面に行くでしょう?
人使いが荒いぃ?だって巻き込んだのはそっちでしょ!
生憎僕の鳩は別の仕事してるんで。
ほらほら、お兄さんならこの手紙の子の顔もわかるでしょ?
頼みましたよ〜!
[そうして車掌の手に委ねられた1通の手紙。
宛先はちゃんと書いてあるが、しっかりと届けられたかは車掌次第。
まぁきっと人の良い彼の事だ。文句を言いつつも届けてくれるだろう。]
[筆を取った翌日──。
村の子どもたちが村の隅っこで
一人で暮らしている老婆が
家の中で倒れている姿を村人たちに伝えまわった。
子どもたちがみつけるのがあと少し遅ければ
羊たちも鳴くことができなくなっていただろう。
子どもからもらった便箋はまだ使い切れないまま
幾重にも折り重なっている。]