あれはね、花弁染めのための薔薇よ。
わたくしたちが手紙の遣り取りをする際に、
“おなじもの”であることを示す証として
あの薔薇の花弁の灰色で染めた便箋を用いていたの。
[きょとりと瞬く「お嬢さん」を前に、庭園の主――プラルトリラ・マツバは、細い灰白の眉尻を下げながらも、小さく笑い声を零していた。]
今ではそんな面倒なことをする者も、
あまり多くはなくなってしまったわ。
最近の子たちはそもそも、手紙自体を
書かなくなってしまったみたいだし。
[「お嬢さん」のジーンズのポケットには、スマートフォンが無造作に突っ込まれている。
プラルトリラの淡緑の双眸は確かにその硬質な四角形を捉えていたが、それについて特に「お嬢さん」に何かを話すでも零すでもなく、苦笑の形を続けるのみ。]