[――――ローズ・メディレア
魔法文明時代の代表的な医術にかかる魔女の名前として、歴史書等に記されている。
魔女として生み出した毒は数知れず。
例えば、今の時代、先の時代でも"メディレアの子守唄"といえば、時折ミステリー小説のトリックの一部として使われる原始的な麻酔毒であり、彼女の象徴。
昔は体の負担も少なく、材料の調達難度を除けばよく全身麻酔として用いられたとか。
そのほかにも、殺虫剤や除草剤のような有用な毒の他、禁忌の毒の組み合わせなど、複数発見しているとされている。
しかし、彼女の功績は毒に集中しており、治療に関する記録は残っていない。
絵本や小説ではよく、毒を解析するための人体実験を繰り返したり、あるいは利益のために殺人を犯す毒婦として描かれている。
いわゆる、悪い魔女として描かれるイメージしか残っていない事だろう。
本当は魔術治療の最後の世代であるのだが、機械文明への移行により、魔術治療は前時代的なものとして流布するかの如く。
機械や科学は善、魔術は次第に異端扱いされ、廃れていく。
その時代の流れを正確に言える人間は今の時代どれほどいるだろうか。
これはそんな晩年の彼女のおはなし。]