泥だらけの素足で、小さな世界を歩んでいく。彼は泥から這いずり出たような生き物だった。底なし沼と同じ黒い肌。身にまとう靴も外套も湿ってる。ぐちょり、ぐちょりと、靴の中で音を立てる足はきっと泥でできていた。純白の世界が靴裏の汚れで穢される。小さな小さなハサミの蟹が、その汚れに突っ込んで、何だこれはと泡を吹く。きれいな世界、無垢な世界。なんにもありはしない世界。ああ今日も。白い月が空に浮かんでいる。漣の音が彼を呼ぶ。