[女将は一瞬取り繕った返事をしようとしただろう。けれどもすぐに彼にはそれは無意味だと感じ取る。…だってたくさん愛されてきた茶々丸くんだもの。…誰かがそばにいない寂しさを、誰よりも知っているもの]
…………。そうねえ。
寂しくない…と言ったら、嘘になっちゃうかもしれないわ
ああ、勿論、ここに来てくださるお客様たちのことはみんな好きよ?暖かくて優しくて…みんないろんな事情を抱えてここにいる。ここにくる。…そんな人たちのことを知って…そしてみんな笑顔でお宿を旅立っていくの。
感慨深いというか…寂しいと思うこともあるわ…けど、それ以上にそうして旅立っていった人たちが幸せになってくれると思うと嬉しいの。
ここで癒やされて…次の人生に、幸せに歩んで行ってほしい。
それは私の本心なの。
…それに、私がここで女将をしているのは、
私のわがままだしね。
見守りたい、見送りたいっていう、ね。
…ずっとここにいたいと思う大切な理由があるの。
だから…本当に気にしなくてもいいのよ?
[…心配の眼差しにはそのように返す。ここでの生活に不満はないこと。大切な理由があってここにいること。そして、旅立つみんなを見守ることが幸せであること。]