『──おあがりなさい。 頑張ってくれたご褒美よ。』[内緒話をするように口元に人差し指を指して笑う人の笑顔が、脳裏にちらつく。確か、あの時のキャロットケーキには少しスパイスが入っていて、それが甘さを引き立てているように感じたのだった。その人は、手ずから作った素朴な菓子を使用人に振る舞うのを好んでいた。それは別に女が特別だったわけではなく、使用人皆に平等に与えられたものだった。]