「心臓は怖いねぇ」——喫煙所で弔問客の呟きを耳にした。聞いたことがある。癌は死に方としては悪くない、別れの時間があるのだから。黒い喪服に身を包んだ母は、泣きはらした目を隠すように背筋を伸ばし、淡々と参列者へ礼を述べていた。焼香の煙の向こう、遺影の父は孫の誕生を祝う笑顔だ。まだ58だ。若すぎると思った。母の隣で姉は小さく肩を震わせながら、香を手向ける手は静かに揺れていた。