『飲み込む術を忘れた少女の言葉に飲み込まれた少女。
“好きですよ”の言葉を最後に、飲み込まれた勢いで
その後の台詞も表情も記憶の奥底に封じられてしまった。
大学進学してからも、美濃は思い出せないでいる。
あの時自分は何て言ったんだろう。
幸阪さんは何て言ったんだっけ。
その部分だけ、記憶に靄がかかったように思い出せない。
思い出そうとすると靄がかかる、胸が悲痛を覚える。
でも奥底で忘れるな、
思い出せと訴えるもう1人の自分もいる。
バームクーヘンを見つけると無意識に手が伸びた。
何故だろう、特別好きでもないのに
今日も大学のカフェのテーブル上にあるのは
ブラックコーヒーと一切れのバームクーヘン。』
[『─玉響に“なけ”─』より 一部抜粋>>0:252>>0:253>>0:254]**