[ともあれ、まずは腹側の表面の皮膚……ではなく、表皮の下の層に針を、糸を、通していく。
慎重な手つきで一針縫い合わせては、その糸を結び合わせる。そしてまた一針、一針ずつ。この時用いた合成糸は時間が立てば体内で溶けるものだから、抜糸の必要は無い。
こうして傷が塞がる程度に縫い終わったら、次は表皮をナイロン糸で、同様に一針ずつ縫い合わせていく。こちらは後日の抜糸が必要だが、それを行うのはだいぶ後日のことになろう。
こうして腹側の傷口を完全に縫い終わってからは、続けて背側を同じようにして縫合していく。
一連の縫合の最中、ハリコの方からレイルに声を掛けることはしない。
人の命を救おうとするこの状況下で――この状況下だからこそ――脳裏に過った話>>2:11もあったが、今は己の左眼と指先への集中を保つことが最優先。
身体を縫われる違和感や痛みを紛らしてくれる言葉は、そばにいる者たち>>8>>12に任せることにしよう。*]