[わたしの事、大事な先輩って、
そう言って猫みたいに懐いてくれた、ソバカスがかわいい赤毛の子。
バイト先が一緒だったから、帰り道はいつも一緒で。
いつかの帰り道、ずっと一緒に居てくださいねって言われたから、私はたまらなくなって、夕焼けの中で彼女の頬にキスをした。]
[わたしの家のご近所さん。
バイト先のパン屋のおかみさんは、いつ会っても焼き立てパンの香ばしい香りがする。
いつかおかみさんみたいなパン屋さんになれたらって、小さい頃からずっと夢見てた。
彼女に旦那さんは居なかったけれど、妊娠した大きなお腹には赤ちゃんが居て、いつか生まれてくる女の子を楽しみにしながら、焼き立てのパンとケーキを、みんなで店頭に並べてた。]
[小説家のおばあさんは、ずっと独りで暮らしていた。
彼女は、やわらかな銀髪を一つにまとめて、窓辺のロッキングチェアで、いつも猫を撫でていた。
足の悪いお客様の為に、わたしはふわふわのパンと甘いケーキを持って、何度も家へと足を運んだ。
彼女が、私の為と内緒で紡いでくれた物語が大好きだったから、何度も続きを強請ったっけ。]