静かなその場所で名前が呼ばれたものだから、>>1:325
いえ、きっと呼ばれなくても話声が聞こえればそちらに向いたのだけれど、
この一週間の間は食堂やカフェを利用していたからか
乗船客の何人かも顔見知りになった。
サンシアさんもそのひとり。
指先で追いかけていた文字を閉じて深く腰掛けていたソファから立ち上がる。
表紙を見せて、これを読んでいたのと、
「懐かしいのを見つけたの。
サンシアさんも、何か探しに?」
返却を終えたところとは気づかずに、
手ぶらの彼女がこれから借りるのかとばかりにそう問いかけて。*