― 昔々、妖具屋。
ここ最近できたと言われる、道具屋。
場所や店主の名前は全て秘密、何を売っているかも明確な答えは見つからない。
基本的に初見の客の注文は受け付けず、依頼された道具を作り、手紙で送りつけてくる。
そんな不思議な店の名前が、妖具屋。
少年、深瀬賢が細々と営む店だ。
妖具屋が売り出している商品は、客が望む効果を持つ道具達。
例えば、妖を滅する呪術を扱う一族に生まれたものの、呪力の制御に苦労していた少年には、呪力の制御を少し補助する帯を。
人に恋し、妖であることを隠しながら近づいたものの変化の術が不得意で長い時間愛しい人と過ごせない妖の女には、人に化けるのを手伝う赤いリボンを。
人とも妖ともとれぬ、半端な生まれによって友達を怪我させてしまったと悔やむ幼子には、妖としての力を一時的に封印できる髪飾りを。
僅かな希望をもって、願った客達の悩み事を解決するために、ほんの少しだけ力を貸すことができる道具。
それが彼が作ってきた、商品だった。