辞めた訳じゃないのよ。
でも今は──何もしない方が危険だからね。
[表と裏は区別しているつもりだ。
たといこの嵐が収まったとしても、この「私」を知る人は間違いなく増える。それを知っていても、動くしかない。
だからこそアリシアは相応の覚悟をもって、単刀直入に、尋ねるのだ。]
用件は大体話したと思うから、詳しい内容についてもお話したいところなんだけどね。あ、思い出話なんかもしちゃう?
でもその前に、何としても聞いておかなきゃいけないことがあってね。
[などと話す様子は看板娘の顔と何ら変わりなく。
あるいは幼い頃、フットマンと話す時にも見せていた顔だろうか。しかしそれだけ言い終えれば、そんな顔は消える。
現れるのは、今のアリシアの顔。
いたって平静な、そしていかなる紛れも許さないというそんな顔で。]