目は空いてるから。
[春の日の台詞をなぞるように結月は告げる。>>1:185
それは、あの時の彼でなければ知らない言葉だ。
不思議そうに瞬いていた少女の目が細められた。]
今日も暑いね。
[意味のない言葉と言ってしまえばそれまでだ。
しかし、結月は静寂を泡立てぬようにそっと囁く。
それを別れの挨拶として、彼女は消しゴムを転がした手を振った。
ひたり、と。微かな足音だけを残してカウンターへ戻っていく。
十歩あれば辿り着ける場所。
椅子に座って、瞼を伏せて、ペンを取って、ノートに手を添えて。
静かで、人も疎らな空間。その一員に戻っていく。>>2:74]