名坂雪

――名坂家や能力のこと――

[名坂家は代々退魔士を輩出する家系だ。

結構古くから続く由緒ある家系らしい。
でも血統を繋ぐ意識はあるものの厳しすぎる掟があるわけではなく、しがらみはなくはないが生まれ育った人間としては意外と普通の家で。
身近な両親が大らかで跡継ぎの兄が自由人なせいもあるか。
婚約者は物心つく前に決められていたが、拒否権はあったし、何より相手が彼なので、反発心が湧いたこともなかった。

教科書に載ったり噂になるような退魔士はおらず、特に有名な家系ともいえないが、堅実でコツコツという感じで、この世界での信用度と確かな地盤はあるだろう。
一家相伝の退魔の術は特にない。
分かりやすく前衛タイプの能力は生まれにくく、罠を張ったり拘束技が得意だったり、補助的な役割を得意とすることが多かった。

代々の中でも使役の術は珍しかったようだ。
そのせいもあり自分の力をなかなか理解できなかった。
退魔士にとっては祓う対象の魔物。
じっと見つめれば目が合った感覚があって、いつしか話しかけていて――気が遠くなる感覚と時間、冷や汗が流れ――いつの間にかそばにいて、なぜか懐いたようにして言うことを聞いてくれている、と。
能力に気づいた時にはホッとしたものだった。

病弱な自分、魔物との距離感が家族の誰とも違う自分を心配してくれていた皆の反応は様々ながらこちらを想ってくれるもので……幼馴染の反応は。**]