[邸宅へと向かう日、身なりを整えられて慣れないシャツを着せられた僕は、怪訝そうな表情が妙に似合う初老の使用人に案内されて邸宅の奥……寝室へと通される。 ]
『" お嬢様"は病床に伏している。
あまり興奮させぬように。』
[隣で語る使用人の言葉に僕は眉を顰めるのを隠そうともしない。
寝室に通された事もそうだけど、そんな状態ならもっと万全の時に呼んで貰えば良いのにと思ったから。
事ここに至っても僕は何故"今"なのかを考えようともしなかった。その事は今でも反省すべき浅慮な点だよ。
戸を開いた時、中には暖炉が設置されていた筈なのに、冷たい風が頬を伝っていくのを感じた。
目線の先には、ベッドに座りこちらを見定める少女の顔。そしてその表情にはこの世の全てに飽いた様な虚無が色濃く張り付いていた。
第一印象は生きているようで、死んでいる。
しかも恐ろしく冷たい瞳でこっちを威圧してくるんだもん。
『こんな人と楽しく話せる訳ないじゃん!』と僕は孤児院の先生の前情報に内心キレる羽目になった訳。
……話してみたら意外と可愛い人だった事に気付くのは別の話。** ]