― 展望台 ―
[どれぐらいそうしていただろう。
ぼんやりとベンチに座ったまま、私は今も存在している。
同じ星なんて存在しない筈なのに、広がる星空は変わらない。
昨日と色違いの星雲から視線をそらし、今度は黒いローヒールパンプスの爪先を見下ろして、今日何度目かも忘れた溜息をついた。
溜息の数だけ幸せが逃げる。とか、科学的根拠の無い言葉知ってるけど、それはあながち間違って居ないと思う。
ふと視線を感じて顔を上げれば、グラスを傾けるスーツの男性が目に入った。>>32
此方を観察する視線が自分の物と交わって、目が合う。
…なんだろう、私浮いてたかな。それとも何か用事とか。
小さく首をかしげながら、交わった視線のまま瞬きを一つ。
立ち上がって、歩み寄る。
変な人だったらどうしようとか、そういう事はあまり考えていなかった。
同じ船で過ごす人物だとか、彼の身綺麗さ等に、警戒心が薄まって居たのもあったかもしれない。]