[涙が口の中に入って塩辛い。氷が解けたように涙が溢れていくのを、慌ててポケットを探ってハンカチを取り出して拭った。]おくさま……。[零れた声は、まるで迷子のようだった。私は奥様を慕っていたけれど、奥様は私達を少しは惜しんで下さっただろうか。叶わなくたっていい。同じ熱量でなくたっていい。あの時、“手離したくない”と言って欲しかった。*]