[少し話し込んでいる間に気配が増えたのを感じた。
気付けば手元のグラスは空になっていて、やはりメニューを開くことなく次の一品をオーダーする。
程なくして十八年物のウイスキーがロックで出てくる。
グラスの半分まで注がれたそれを、同時に出されたたった数粒のチョコレートと共に飲み進めていく。]
……マスター、この前……
酒を楽しむ為に人工内臓に取り替えた若者が
此処へ流れて来たって本当かい?
その内、義体化手術よりも
本物の臓器の方が高値がつく時代が来ると
そればかり思っていたんだけどね……
[紛争に巻き込まれて脚を失った者。操縦の為腕が四本必要になった者。そういう話ならごまんと聞くし、その緊急性も伺える。
だが、娯楽の為に元ある肝臓を捨てるなど奇妙な話だ。それ程までに人間の身体は不便だと疎まれていると思うと、少し寂しさを覚える。]
私が脳を機械に移したところでどうにもならない質だと
分かっているからこう思うのかも知れないね……