[帰路の時はもう既に、視界がぼやけだしていた。
街の灯りの色だけが、その眩さだけがわかるものの、
はっきりとしたモノの形は掴めない。]
「 ――――― … ? 」
[ただ周囲の音だけが、普段聞こえる物音以上に
ずん、ずん、と耳から頭の内に響いてくる。
くらっとして垂れそうな頭を、意志の力だけで持ち上げる。]
「 ――――――― 、 、 」
[もう誰も来るな。傍に来るな、
どうにか店に入って鍵をかけるまで――
そんな思いももはや、言葉という形を結びはしない。
まるで墓石からふっと湧き出てきた
未だ淡い実体の、黒い影の頃のように。]