[前髪に隠された瞳が己を捉えて大きな手がひらりと振られる。
知己であるかのように「三ノ宮氏」とかの人は僕をそう呼んだ。
その声に多少の親しみが感じられたのは、僕の気のせいでもあるまい。
己も相当背の高い自覚はあるのだが、その人は自分よりも頭1つ以上大きくて、思わず、不躾にならない程度にかの人を見上げる。
そう年は違わないように見えるけれど、父や姉たち、あるいは祖父の知り合いなのだろうか。であれば、失礼があってはいけない、三ノ宮の長男の非礼をあとで誹りを受けるのは、家だ、とまで考えた。
けれども、「三ノ宮氏」という呼び方から、他の三ノ宮の人間は彼にはかかわりがないのだろうと判断する。]