[隠す気のない足音が聞こえる。一人、入口から迷わず私に向かっている。
夜襲を受ける事を全く想定していなかった訳ではない。しかしこうも堂々と入られては、囮を警戒しなくては──などと頭を働かせながら、闖入者を部屋に迎え入れる。その人物は──]
……ページボーイではなく、あなたが来るの?
[見知った顔だ。だが「そういう関係」として対面するのは初めての事。
私を迎えに来た男──フィジシャンは、一体どんな顔をしているだろうか。心配している顔?笑っている顔?いずれにせよ、アリシアの判断は変わらない。]
淑女の寝室を予告もなくなんて不躾だわ。
猫の手も借りたいっていう事?……なんて反発してみても、私に拒否権は無いのでしょうけど。お店ひとつを潰すなんてどんな組織にも難しい事じゃないもの。
[フィジシャンの話を聞くことも無く、思うところを捲し立てる。店を守るために動いていることも、そのために動くことも、全て把握されているのなら、アリシアの元を訪れる理由は1つしかない。]
戦えるお人形をお望みなんでしょ?
[公爵が姿を晦ましたことも、彼女の寝室を訪れたフィジシャンの内心も、この街がどう動くのかも、少女は未だ何も知らない。**]