― 地下:とある特殊な階層 ―
[そんな最中、通りがかった独房の前、不意にわたしは歩みを止めた。
急について来なくなった囚人へ声を荒げる男性看守を無視し、その場に佇む。
こんな場所で立ち止まるなと彼は焦っていたけれど、態々遠い区画を選び、見せしめ目的と引きずりまわしたのはソッチでしょう?
だから全部、迷い込んだ貴方のせいだわ。
わたしは、収監所に似合わないシガーの香りに気付くと顔を上げ、乱れた黒髪の隙間から周りをぐるりと見渡す。
普段自分が押し込まれている区画とは全く雰囲気の異なる其処に、小さく首をかしげて。
そうして分厚いカーテンの向こう側、
美しい人が見えたものだから。]