[そんな縁から、後日にまたこの「運び屋」がハリコの檻の前を訪れに来た。
その際に密かに、火傷の痕のための保冷剤を渡されたのだが――]
(あたしには要らないんだけれどな。
もうそんなに痛む訳でもないし……)
[だから他の必要そうな囚人のもとに――とは考えたものの、実際にひそかな囁きとして声に出したのは]
“ありがとう。少しは効くと思うわ”
[己に不要と知りながら保冷剤を受け取る、という詐取。「善意を素直に受け取っただけ」と言えば聞こえは良かったが……。
勿論、火傷の手当以外にも使い道はあるだろう。この時のハリコには思いつかなかっただけで。]