前の所有者は。……亡くなりました。
この船旅は、ある意味の私と彼女の
最期の旅行…かもしれません。
私は彼女の「夫」を模して作られているのですが、
この旅が終わるまで…そのままでいてほしいと。
それが彼女の遺言でして。
[俯いた私の瞳は、眼鏡に隠れて見えないだろう。むしろこんなに簡単に人は、涙を零さないのではないか。
でも私は亡き所有者、ドロシーの事を想えば丸眼鏡の硝子を曇らせるのである。
それが私の想いなのか、ドロシーの望んだプログラムかというのは、私にはわからない。
静かに湯をペーパーフィルタ―にセットした粉に注いでいく。湯を吸った粉は膨らんでいい色合いを見せた。
彼女を待たせて申し訳ないが、もう少しかかる。]*