[――そんな演技が、
田美院先生の記憶の端に引っかかっていたらしい。
オーディションに受かった後、
キャストとの顔合わせ・読み合わせを初めて行った日、
ご挨拶に伺った先で声をかけてもらった。
「幸阪には小さな身体で大きく動ける人が必要だった」と。
嬉しかった。
自分の努力が実を結んだようで。意味があったようで。
元から好きだった『幸阪結月』をもっと好きになった。
これまでのように、これまで以上に大切に演じたいと思う。
根岸寧子は遅咲きの新人女優である。
いや、正確に言えばまだ咲く前の段階だ。
花開くことができるかはこれからの己次第である。
頭上に聞こえる拍手を聞きながら、お腹に力を込めた。]