[道中何かを訊かれたとしたら、面倒くさそうに相槌でも打ったかもしれない。媚びを売らないのかって?見ず知らずの男に路地裏で媚売ったりなんかしたら、それこそ身が危険でしょ。ほらあっちでもこっちでも妙な視線を向けてくる男がいる。
この場所は変わってないな、と思う。女であることがバレたらたとえ幼児でも見境はなかったし、母親が居なくなって、6歳、7歳、と少女らしさが現れるようになってから、よりそれは顕著だった。毎日が酷すぎて記憶すらも故意に抜け落ちているけれど、同時にそれで”金が稼げる”と知ったゆえにボクはあの日々を生き延びた
ああ、でも。後ろだか前だかを歩く男に目を向けてるあっちのヤツは、金が目的だな。まき上げてやろうとでも思ってるのだろうか。そこまで体格も大きくはない男だ、大人数で襲い掛かれば、もしくは、などと
歩く道はどんどん暗く狭くなる。転がる塵屑、建物の排気口から出る生活臭、何かが腐ったような匂いや尿の匂い、所狭しと干された襤褸切れはこう見えて洗濯物なのを知っている。人ひとり通るのが精いっぱいな通路からは空は殆ど見えなくなった
遂に足は目的地へと辿り着く]