[たった一瞬の邂逅の筈だった。
無垢を見抜くには充分過ぎるだけの時間があった。
交わった視線の先で瞬いた、炎症に散々腫らした顔。
本来なら清い程に澄んでいるのであろう肌は薄暗い廊下においても生白く浮かび上がっていて、割れた唇が紡いだ甘い言葉がいやに凛と響いて聞こえた。>>50]
綺麗な子。
[血で張り付いた髪の向こう側にある瞳へ笑いかけたのは、皮肉ではなく。
次のひと口を喫んでいる間にも看守が歩みを早めてしまったから、招待への返答はその場ではお預けとなった。
廊下に暫く揺蕩った鼻歌を妨げる音がないのは、若い女に目の色を変えて追い縋る様な暴漢もこの階層には居ないからだ。]