[>>57カウンター席の少年が、会計について店主に声を掛けているのが聞こえた。──“帰る”。普通の店であれば、食事を終えたら家に帰るものだ。女は目を開かされたような心地だった。けれど一番帰りたい場所には、もう帰れない。記憶が確かであれば、まだ女は次の就職先に辿り着いていなかった筈。順当に行くならば、そちらに“帰る”べきなのだろう。けれど、店主はこの街で仕事を斡旋出来ると言ってくれていた。戻るのか、それとも。これまでの女の人生は全て決められたものだった。暫し、考え込む。**]