[どのくらい経ってからか、ニットの胸元を濡らしていた涙もすっかり乾いた頃。
シマは足湯から上がり、黒革のブーツを履き直してから、談話スペースを後にしました。
早鐘のごと打ち続ける鼓動と共に夜明けを控える空の下。>>2:#4
シマは最後に、あの雪積もる庭園の中でみつけた柵>>0:210のもとに、変わらぬツバサ様の装いのまま立ち寄ります。
この場所に“それら”の痕跡があるとシマに分かったのは、品種の違いはあれどおなじバラの精霊としての勘だったのでしょう。>>0:211>>0:212]
この庭の数多の花は、女将さんが植えたのか、
客人が持ち寄ったものか。
[水連。牡丹。つつじに桜、紅葉や黒松の樹、などなど。
今は土の中で眠る菖蒲などの球根や草花の種子も。
それらの存在を思いながら、けれどそれらとは異なり根付かなかった(あの世の)いのちをシマは思います。]