― 春・五月/校舎前花壇 ―
[花壇を見下ろす結月のカット。
少し間を置いて、明るい声>>55が飛び込んできた。
伏せがちだった瞼を持ち上げ、結月は振り向く。
同時にカメラは声の主の方へと被写体を変えた。]
……こんにちは。お供え?
[相手の顔を見つめる結月の顎はあまり上がらない。
少女程ではないが、目の前の生徒も男子にしては小柄な方だ。
原作を読んだ時の印象と差異があるが違和感を覚えないのは、
演じる水戸が役と馴染んでいるからだと根岸は思う。
意味を考えるような間、視線ははらりと背後に落ちる。
横たわっていた花はまだそこにあったか。
なくとも、結月がその存在を知っていることは伝わるだろう。
カメラが事故現場である花壇を映した。]