――食堂(船旅最終日)――
[明日には宇宙船「リベルテ」はホワイト・マーブルに到着し、宇宙港への入港を果たす。私はいくつかの事を済ませると普段通り食堂に向かった。
妻ドロシーと過ごす際も、臨終間際になろうと私はこの「普段通り」を大切にした。残り少ない時間に出来る事ややりたい事もある。やるべき事も。でもだからと、毎日日課や生活を疎かにするのも違う。
ドロシーはベッドから、私が珈琲を淹れる姿をじっと見ていた。
彼女はもう珈琲が喉を通る状態ではなかったが、その香りを愉しむことはまだ出来たから。
そんなことを思い出しながら私は食堂のカウンターに立つ。今日も誰かが来てくれるだろうかと心待ちにしつつ、その間に換気扇などの掃除出来る部分をせっせと磨く。お掃除役のアンドロイドペンギンと共に。]