――路地――
[“人”は泣くと、心が洗われると言います。
だとするなら、この鈍色の空は何が悲しくて、こんなにも泣き続けているのでしょうか。
何日も降り続いている細かい雨は世界を灰色に変えて、地面を湿っぽい冷ややかさで覆っています。
何もかもを濡らすまで、止むことは無いのかもしれない――――そんな感傷を胸に私は傘をさしていました。]
――…大丈夫、ですか?
[控えめに声をかけた相手は、目の前で血を流して倒れている体格の良い男性。
既に事切れていると予想はしつつも念のため、でした。
この辺りは治安が悪いので争いごとも絶えず、こういう事態も少なくありません。
状況を見るに、その筋の者同士のいざこざがあったのでしょう。
首に触れると、彼には未だ温もりがありました。]