[ハリコの目の前で、その男の看守の身体が不意に揺らぎ、床に転がり落ちるーー何者か>>37に鳩尾を打たれ、足を払われたのだ。
そしてその何者かは看守から札束を奪い取り、女囚へと渡してきた。
カネをこちらに差し出すその手は見えていたものの、それでもハリコは手を伸ばせなかった。それは、今この場で何が起きたのかをすぐには理解できなかったからでもあったのだがーー]
…………おね、が、い、何も、
[看守から札束を奪い取ったその何者かの体躯も出で立ちも、ハリコには男性のそれに思えていた。そのことが、今まさに辱められるところだったハリコに反射的な恐怖を齎していたのだ。
そんな恐れから身動ぎもできずにいたハリコの札束は、結局、手近なテーブルの上に返されていたのだった。]