― 三月/卒業式 ― 「幸阪結月」[名前を呼ばれ、歩き出す。小さな身体は今更成長するなんてこともなく、何も変わらなかった。それでも背筋を伸ばして、胸を張って前へ進む。] ――。[体育館の中は静かだった。冬の温度は緩んだが、緊張感を滲ませる静寂には冷たさがあった。結月は真剣な面持ちで前を向いている。マイクを通した大人の声が広い空間に響いていた。結月の背中が映る。明るい色をした髪の毛が、肩の上で揺らいでいた。]