[さて、その“男”が着ていたのが刑務官の制服であれそれ以外であれ、この場で放ったその一言>>38を聞いた女囚の左眼には、その“男”が現役の看守に見えていた(そしてこの時の声の調子も、その声の高さがどうであれ、ハリコには男性のものに聞こえていた)。
転がりながらも何かの文句を呟き呻く男の看守を無理やりにでも立たせた“男の看守”が去り際に振り向いて告げたこと>>39を、女囚は呆然と聞きーーかなり遅れてのタイミングで、こくりと一度だけ頷いていた。]
…………、ありがと、ござい、ます、
看守、さん。
[なんとか返せた頷きも、漸く状況を把握して(どこまで正しく把握できたかはともかく)絞り出せた感謝も、巡回の担当を変更すると伝えてくれた相手には、果たして伝わったかどうか。
いずれにせよ、結果として、この時の「規律違反」の輩がハリコの檻の前に現れることはなくなった。……他の連中はともかくとして、だ。]