……ある時に、そのハーヴィス先生が行方不明になった、と旅先の報道で知らされた。
かのライヘンバッハの滝に落ちたとか、その滝は世界の綻びであり渾沌の不可逆の廃棄孔であるだの、様々な噂だのなんだのも、聞かされたものだったが――。
今、俺の手元に在る、例の札束泥棒の……じゃなくて探偵の物語を乗せた2枚の手紙が、あの時ハーヴィスから渡された――返してしまった原稿の一部なのだという考えは、俺の中で凡そ確信と化していた。
といったって、そのことを、この街で大げさに話すなんてことはしなかった。寧ろ、言う気になれなかった。
何だか、あの作家の――あの人の――“ガード”に纏わるもののことで騒ぎを起こさせたくなかったような、そんな思いになっていたんだ。