[知った声がわたしの名を呼ぶ。>>42
良かった、この船で合ってたんだ。
――本当に良かった。
知った2人の顔に弱々しく笑みを返そうとする頃には、崩落の音色は既に遠く、船のエンジン音と波の音にかき消されて。>>45
フィアを連れて来る事が出来なかった事を再び思い出し、泣きそうになるのをぐっとこらえる。
切り傷、擦り傷、打撲、刺し傷。
骨は折れていないものの、あらゆる傷を肌に刻んで。ボロボロになった服は、自分の血か返り血かすらも分からなくなった赤色に。
滴る汗を拭えば手にも新たな赤が付着した物だから、顔にも何かしらの切り傷を負って居るのだと言う事は、自分にも何となく理解できた。
不思議と怪我の痛みは無い。
けれど胸の奥がズンと重くて、そこが痛いのだと、そう感じる。
甲板を汚す赤を静かに見下ろして、ハリコも此処に居なかったらどうしようって、そう考えて。
そう考えていた矢先、彼女の顔が見えた物だから。>>89]