[彼の背を見送りながら、わたしはカーテンの向こうに消えた綺麗な人の事を思い出す。
返事を聞く前にあの場を後にしてしまった事を悔しく思い、せめて名乗れば良かったと、床に座り込みながら酷く後悔した。]
覚えてて貰えるかしら
[わたしの顔を、わたしの事を。
此処には沢山の人が居るから、もしかしたら忘れられてしまうかもね。
……それでもいいわ。
一方的であったとしても、わたしは覚えているのだから。
殴られた顔は未だ熱を持って腫れている。元に戻るまで時間はかかるだろうけれど、痕が残る程ではない筈よ。
だから、寝る前にきちんと長い髪をとかして、その日は幸せな気持ちで眠ったわ。*]