― そうして ―
[ぐずぐずと鼻をすすり、服の袖で目を涙を拭う。
一生分泣いたわたしは、自分の傷の手当は済んでいたかなんて、そんな些細な事は忘れてしまった。
おめでとうの声に顔を上げれば見覚えのある銀髪が見えたから、ああ貴方も無事でよかったと、そう思ったものの、ぶら下げている点滴を見つければ心配そうに眉を下げる。>>46
きっと、酷い傷なのだろう。
もしかしたら、外科手術が行われた事を誰かが教えてくれたかもしれないが、今は船の揺れに合わせ揺れる、液体の詰まったビニルの袋を不安げに目で追い、再び彼の顔を見る。
それでも今は、祝いの言葉に声を返しましょうか。>>47]
ふふ、貴方が引っ張ってくれたおかげだわ
[わたしは唯、調理場を粉々にしただけよ?
アイデアをくれたのは貴方だったわ。
檻の外に大事なものがあったから、貴方は数多を積み上げ此処まで来た。
ハリコの言った「大切な人」と言うワードや、続いた「大切な人の名前」に小さく微笑みを浮かべて。>>90>>91
もっと喜べばいいのにと、落ち着き振舞う彼の内心に思いを馳せれば、わたしは今度こそ、何時ものようににっこり笑った。*]