― 記録004:ギンタ・ナガオの部屋 ―
[嵩張る宇宙服を脱ぎ、慣れた私服に着替えた後、改めて広い部屋の中を見渡す。
畳、床の間、座椅子、小さな冷蔵庫、テレビ、湯呑のセット、木製テーブルの上には茶菓子が数個。
風景を切り取る大きな窓の傍には、ささやかなスペースが設けられており、小さなテーブルが1つと、四つ脚の椅子が二脚並べられている。]
わーっ!
旅館の窓際にあるアレだー!
[子供のようにはしゃぎ、窓際に駆け寄る、34歳、僕!
一応この場所には「広縁」という名前が付いて居るのだが、自分は存じ上げない為旅館の窓際のアレとしておこう。
大抵の人が大好き、旅館の窓際のアレ。
温泉帰りの浴衣姿で、風景を眺めながらゆったり過ごすのが好きだったんだよなあと懐かしい思い出に浸りつつ窓を開ければ、吹き込む小さな風が自身の前髪を揺らし、頬を撫でる。
もう二度と感じる事は出来ないのだと、そうやって宇宙の中で諦めた、風、音、色、温度。
眼鏡の向こうで目を細め、ゆっくりとガラス戸を閉じる。
木の擦れ合う重い感覚さえも愛おしくて、与えられた最後の時間に感謝した。]