[さて、この死地を徘徊し傍観していた「鳥のようなもの」には、ある特徴があった。
それは、25年程前に滅びたあのカルト組織――「シンギュラリティ」が用いていた飛翔機そのままの形状だ、ということ。この機体のタイプ名は「ヌエ」。
とはいえ機体の材料自体は市販のパーツを利用したもので、機体の色も当時と同じ白色ではなく黒色だったが。
四半世紀前にあった組織を直に知らない者であっても、かつての戦場を知るベテランの組織員からの伝聞で「ヌエ」について知る機会はあったかもしれない。
明らかに人型でないこの「ヌエ」に人間の意識が搭載されていた……なんて話も残っている程だ。オクリビが飛ばした「ヌエもどき」には流石に、生物由来の意識は無かったが。
今まさに前線で殺し合っている者たちの目には、まずこの「ヌエもどき」は映るまい。もし映ってしまったならば、それが油断に繋がり命を落としても文句は言えまい!
けれどもこの乱戦乱世の最中にも、幾らかの余裕ある者であれば(それこそこれまで何度か撃ち落されかけているのだから!)、目に留めることもできるかもしれない。]