ー 春・ある日の朝 校舎前花壇にて ー
[パンジーが咲いていた。赤、青、黄、紫、白、橙。
この花は、彼が去年、先輩と共に植えたものだった。
美化委員長になって、世話を続けて、ようやく花開くときを見届けることができた。
彼は眺める、色とりどりの花を。
枯れる様子も弱る様子もなく、美しく咲くそれらを。
満足げにするでもなく、見惚れるでもなく、ただ眺めて。]
ま。こんなもんだろ。
[一人ごちて、浅く腰かけた花壇の縁から体を離す。
鞄を手に取ると、そのまま真っ直ぐ玄関へと向かう。
始業前、まだ早い時間。人もまばらな中へと、彼は歩いていく。
後にはただ、春風に揺られる花だけが残る。]**