― 5月:校舎前 ―
[ケン・ドリックが日本に来たのは小学6年生の頃。
父親の仕事の都合、という設定だ。
来日当初はきっと言葉も覚束なくて、
この異国に馴染めるかどうか、そんな不安が……
いや、どうだろう。
現在に不満はあっても、未来に不安は抱かない、
まだそんな無邪気で無敵な精神を持っていた。
変なコンプレックスも垣根も
作ったつもりはない、少なくとも彼自身は。
だけど、時折感じる視線、奇異の目は。
己が何か間違ってしまっているからなのだろう。
そう結論づける。
バスケットボールに添えた右手がつ―――― と動く。]