[立ち所に響めきが周囲に満ちた。]
[その場に居る誰もが、“それらしい”解答を期待していた。
凄惨な幼少期、常ならぬ家族関係、悲劇の過去。
弁護人の言にそれらの種明かしが混ざる事はこれまでにも全くと言ってなく、逮捕のニュースが流れてから血眼になって続報を追っていた市井の期待を大きく裏切る事になった。]
[当然だ。
そこに思想はない。
大層な望みもない。
かつて普通の女学生だった女を変えたのは
鮮やかな大事件でも何でもなく。
世間の何処にでも潜む様な悪意に偶然手を引かれ、
裏社会へ踏み入れただけの経歴。
・・・・
世間が求める様なドラマ性などなかった。]