[新作として発表されたそのモノクローム写真は、 とある邸宅の寝室を思わせる風景を映したもの。 窓に掛かった薄手のカーテン越しに、 月灯りを思わせる淡い光がぼんやりと浮かぶ。 その窓際にあるベッドには誰の姿もなく(ひとりの男が半身を起こし)、 少し乱れて皺の寄ったシーツが陰影を形作る(顔の左側を隠すように右を向いて、照れ隠しのように小さく俯いている)。 誰かがこのベッドを用いていたことだけは推察できるものの(どこか寝起きのような気だるさを、少し乱れた銀色の髪と眼差しとに滲ませながら) そこにいるべき人はいない、そんな写真だ(まあ映らないんだろうな、と微かに苦笑いを浮かべている)。 タイトルは、『C♯m』。 夜想曲のキーとしてしばしば用いられ、 叙情的だとも語られる、そんな短調だ。]