――食堂エリア――
[彼女は生前のドロシーがそうであったように、私の所作を目で追い、静かな食堂内に響く豆の声に耳を傾けている。>>95
待たせることを申し訳なく思うが、急ぐと味が変わってしまうからここはのんびりやらせて貰った。
アンドロイドである私の肌はやかんに触れるだけで湯の温度を測定することが出来る。
蒸気を嗅げば豆の蒸れ具合をパーセンテージで示すことも可能だ。
でも、私は敢えて数値を無視して感覚で珈琲を淹れる。
そうして淹れたものの方がいつもドロシーに喜ばれたから。
単一ではない、微妙に毎回味の異なるものが。
彼女は私が名を呼ぶと少し表情に悦びを乗せてくれたように見えた。
自然な喜怒哀楽。花が綻ぶように人は微笑む。
それを私は美しいと思うし嬉しいから、緩やかに笑みを口元に浮かべた。]