[お菓子コーナーへの誘いを結月が断ったのを確認すると、
部員は惜しむことなく離れて行った。
集中が解けたのだろう。
男女問わず和気あいあいと雑談をする声が響く。]
……。
[結月は言葉を発さない。
大きな動きを見込まれて勝ち取った役だが、
序盤の幸阪結月には台詞も動きも少ない。
代わりに表情だけで語ることを求められる場面が多く、
舞台の経験しかない根岸は稽古で苦戦を強いられたものだ。]
――――、
[熱の籠った瞳で、けれど熱すぎてはいけない。
冷静でいようとして失敗してしまうような、
他の何も目に入らなくなってしまうような。
結月は大きな目を見開いて右手に持った鉛筆を動かす。
少女の心境を表すかのように周りの音が遠ざかった。]